第2章 回想
「魔剣教団について、教えろ」
じゃらじゃらとカウンターに落とされる金貨に、その女はほほ笑みを浮かべるままだった。ひどく甘い香水と酒の香りがまともにぶつかりあっていて酷く混沌とした印象を受ける。
「それを、アタシに聞くの? そこらを歩いてる奴に適当に聞いたって答えは返ってくるだろう」
言外に突っぱねられたとわかっていても、バージルはその金貨をそのままにして更に言葉を重ねた。
「教団からのマークがないうちに調査を終わらせたい」
「だったら追加料金だね、そうすれば魔剣教団の情報に加えて足のつかない三食昼寝付きの宿も提供してあげる」
バージルは1つため息をついて更に懐の袋から金貨を掴み、彼女の前に捨て置いた。
彼女は満足げにそれらをかき集め、自分の懐に入れてしまってからカウンターを開けて彼を先導し歩き出す。そうしつつ振り返ることもなく名乗った。
「アタシはビアンカ」
「バージルだ」
いかにもといった風情の古書店はそう広くなく、カウンターの横にある『関係者以外立ち入り禁止』と銘打たれた扉を開けばむしろ古書店よりもそちらの方が広いのではないかと思われる居住空間があった。
彼女の趣味なのかなんなのかはわからないが、アンティークで固められた家具達はそれなりに手入れはされているらしく質のいい光沢がある。一つの大きな部屋、その入り口を背にした両側にいくつもの扉があり、おそらくその先には個室がそれぞれ続いているのだろうと思われた。最奥にあるのは大きな暖炉だ、だが最近使った形跡はなく、炉内には灰一つない。
「そっちの部屋を使うといい、もちろんあんたがここに居るって情報は金を積まれても話さないから安心してくれていいよ」
そんな言葉を背で聴きながら彼はぞんざいに彼女が指し示したあるひとつの扉を開け放った。中にあるのは大きめのクローゼットとひと揃いの寝具、それから少し褪せを感じる絨毯など。寝に戻るだけの宿にしては少しばかり機能的すぎるだろうが前払いでもう対価は支払っているのだし何も言わないことにする。
「さて、魔剣教団について……だったか」
まるで談話室のようなていの広い空間の中で革張りのソファに体を落ち着けながらビアンカはそう切り出した。