第1章 プロローグ
「……まさかと思うけど」
ネロはもう少しだけ話を広げようとした。そのビアンカという女性の正体に何となく察しをつけたからだ。そしてバージルもまた、それを否定しようとはしなかった。少しばかり暈しはしたが、『肉体関係があった』と仄めかす。
「心当たりがあるのはその女だけだ」
「ソイツが俺の、母親……?」
元々、ネロは自分の実親に興味がなかった。捨て子だということは望まれて生まれたのではないと分かっていたからだ。だから自分にとっての両親は育ての養い親だし、家族はその両親の実子であるキリエとクレドだけ。そう信じていたし、そう思い込んでいた。
──本当の父親、というものが目の前に現れるまでは。
バージルがお前の親父だ、とダンテが叫んだあの時から……ネロは戸惑いを消せずにいた。
今更、どう受け止めていいかわからなかったのだ。
キリエと恋人になり、家族になった。ネロにはもうネロ自身の作り上げた家庭がある。今更、自分と直接血の繋がっている家族の存在を聞かされたくなどなかった。
でも今のネロはそれを知ってしまっている。知ることを諦めた父親が(たとえソイツが邂逅1番にこちらの右腕を引きちぎってくるというとんでもクソ野郎だとしても)生きていたということを。
「聞きたいのか、その女の話を」
「……わかんねぇ。今だってアンタを親父として理解はしたけど、家族として受け入れられるかっていわれりゃわかんねぇ。だから同じように母親のことを聞かされてもどう感じるかなんて想像もつかねぇよ」
自分でそういうだけあって、ネロは気持ちの整理をつけきれずに居るようだった。何もかもが、今更にしか感じられなくて。でも、と多少時系列が前後しつつ彼はなんとか言葉にする。
「でも、知りたいとは……思う」
「……わかった」
バージルはネロに視線を向けないまま1つ深く息をした。
「俺がビアンカという存在を知った時、奴はフォルトゥナで情報屋を営んでいた」