第6章 真実
「――だが」
バージルは一度言葉を切り、唸るように声と息をこぼす。ネロは構えかけていたレッドクイーンを背負い直し、そうしてから父が切ったままになっていた言葉の続きを促す。
「だが、なんだよ?」
バージルは歩し言い淀むような仕草を見せた後、ようやく言葉の先を見つけたようだった。
「解せない事がある」
「つまり?」
「何故お前だけが生き残ったのか、だ」
「……そのビアンカとかいうオレの母親がオレを守ろうとしたからじゃないのか?」
「最初はオレもそう思った。奴に万が一母性というものが備わる機会があれば……信じがたい事だが、有り得るかもしれん」
じゃあ、と言いつのろうとしたネロはバージルが更に何か言おうと言葉を探している事に気付いて、発しかけた声を圧し殺した。彼は確認のように言う。
「お前のその『ネロ』という名前は、孤児院で拾われた時身に付けていた産着の色が由来だと言っていたな?」
ネロは無言でうなずいた。彼の言葉の意味を、正直理解しかねていたからだ。
「それは有り得ない。奴は黒を毛嫌し徹底して身の周りから排除していたくらいだ。そんな奴がわざわざ自分の子供に黒い産着など選ぶものか」
――嫌いなんだよ、黒。なんだか魔女みたいだろう?
「だったら、」
「ビアンカ共々貴様も死んでいたなら納得できる。二人揃って生き残ったなら、それは運が良かったのだろう。お前が死んでビアンカが生き残るのが一番自然な流れだ」
それはネロも薄々感じてはいた。悪魔はスパーダの血筋の匂いに引き寄せられる。ネロが生まれて少なくとも一ケ月前後に襲われたと考えるのであれば、その悪魔はスパーダの末裔を狙った、と考えるのが妥当だろう。では、何故、唯の人間であった母だけが死に、一人で逃げるなんてできるはずもない乳飲み子だけが生き残ったのか。
「……嘘付き女、か」
バージルは考え深気に、彼女への蔑称を口にした。