第6章 真実
息が切れる。足元が覚束ない。背中が燃えているように熱い。背中が焦げてしまいそうだ。
一体何故?だって見渡す限り炎なんて何拠にも無いじゃないか
……なんだっていい、酒が回ってきたみたいだ。眠気に身を任せてこのまま……
錯乱する彼女の意識はそれでも赤子の弱々しい泣き声を開き逃がさなかった。
今にも消えてしまいそうなそれに、一度は止まりかけた右足が再び強く地を蹴り上げる。
そうだビアンカ、思い出せ。この声はお前の息子の声だ。無力に母に縋る事しかできぬ幼な子だ。
お前がこの子を諦めれば、ぎっとお前は生き延びるだろう。
お前にそれができるか?我が身可愛さにあの男の血筋を終わらせるのか?
──否!
ビアンカは喉を裂くように叫んだ。
『諦めるものか、終わらせるものか! この子はアタシと……バージルがこの世に生きた証だ!』
頭の中で自分の声が笑った気がした。
腕の中のおくるみをしっかりと抱きしめる。体中がが熱くて痛いけど、この子の為ならなんだってできるような気さえしてくる。母とはこんなに強い存在だったのか。この子だけは守る、何があっても。
耳障りな音。皆後のそれを振り払うようにビアンカは目立たない小さな脇道へと転がり込む。気管が擦り切れそうなほど荒く呼吸を繰り返し、そして少したけでも体力を取り戻そうと壁を背にしてへたり込む。相変わらず燃えている体と裏腹に彼女の思考はクリアだった。
──魔剣教団本部、聖堂、教団騎士詰所。現在位置から一番近いのは何処だ?
地相の関係上彼らは悪魔との交戦頻度が高く、殉職率も決して低くはないがそれだけ対悪魔技術も卓越している。彼らの助けがあればきっと助かるだろう。