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【DMCバージル夢】父と子と

第6章 真実


『万策尽きた、か……』

 路地裏で、ビアンカは血のりがこびりついた髪を後ろへと払った。案外最期の瞬間こそアタシの人生で一番輝いてる融感んじゃないか、とも。冗談のように、『筆と日記を忘れたのが悔やまれるなぁ』なんて言葉も漏れた。この体で最寄りの施設へ駆け込むのが間に合うかは五分五分といったところ。五分五分では駄目だ、100%確実な策でなければ実行する価値はない。何故なら、この策に命を賭けるのは彼女ではなく彼女の息子だからだ。

『息子、か……アンタが男の子だったことでアタシがどれだけ喜んだか、きっとアンタもバージルもわかんないだろうね』

 万感を込めた彼女の独白。そうして彼女は息子を抱き、ゆっくりと座りなおした。

『愛してるわ──。アタシが想像していたよりも、遥かに』

 ビアンカは声を震わせながら囁いた。愛しい我が子の額に自分の額をそっと触れさせ、祈るような声音で言葉を続ける。

『アンタの名前、ホントはずっと前から決めてたんだけどね。でも、アタシには名付けてあげる時間は無さそうだから、アンタにあげたかった名前はアタシが地獄まで持って行くね』

 言いたい事も、教えてあげたい事も山のようにあった。例え今、生まれたての赤ん坊である彼には理解できずとも……これからも時間だって山のようにあると信じていたから。だが、疑いすらしなかった彼女の残り時間は、彼女が信じたよりもずっと少なかった。母としてどれだけの事をしてやれるのか、楽しみで仕方なかった。そりゃあ、この子に誇れるような人生なんて何一つ送ってこなかったけれども、せめてこの子が不幸にならないよう守り、慈しみ、育てていくはずだったのに。その誓いの証としてこの子への初めてのプレゼントとなるはずだったものを、彼女は諦めねばならなかった。悔しくないはずがない。悔しさで喉が裂けてしまいそうだった。それでも彼女は自棄になる事はしなかった。ビアンカは享楽的だったが同時に非常に理性的な女だ。それはこのような時にこそ違憶なく発揮されるものだったらしい。

『生きるのよ、幸せに。アタシと生きるよりも』

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