第5章 母の痕跡
「……アイツはオレのせいで死んだんだな」
バージルは一度息を詰めてから息子へと目を向けた。細かな事情が違うとはいえ、やはり彼は自分とは違う情緒と感性を持っているのだと思い知らされる。
「オレがスパーダの血を引いてるから。だからキリエが人質にされて、そんなキリエを助けようとしてクレドは死んだ。だからコイツもきっと……」
オレは何も出来なかった、と彼は吐き出すように、呻くように言った。捨てられたのではなかったと、喜ぶことも出来ない。彼の心中を慮るだけでは到底足りないだろうが、バージルもまたその責任の一端を担っているのだ。人らしい物の見方をVから受け継いだ今、ネロが考えていることを推測することはできるようになっていた。
「──少なくとも」
以前の彼なら無言を貫いただろう、しかし不思議と声が口をついた。
「奴はそうは思っていないだろうな」
「なんでそう思うんだ」
「思っていなければさっさとお前を捨て置いて逃げている」
ビアンカが胸に抱えていたのはほぼ確実に産まれたばかりのネロだ、スケアクロウ達がビアンカを追おうとしたのもそのせいだろう。確かに人間を殺すのも彼らの習性だろうが、この場合彼らの本能ではスパーダの血筋に対する反応が上回る。そもそも彼女が背中に傷を負っていたのも咄嗟に息子を庇ったからだと推測された、ならば彼女は無意識ではなく、明確に彼女の息子を守ろうとしている。それを後悔するようならば、傷を負った時点で一人で逃げているに違いない。人間誰しも自分の命が大事だ、悪魔や半魔と比べて随分簡単に死んでしまうのだから。