第1章 プロローグ
「フォルトゥナでは、人が死んだ時記録が残るのか」
移動事務所Devil May Cryの中で、息子との間に流れる沈黙を切り払うようにバージルは唐突にそう問うた。
言われた相手の方は、それまでしかめっ面で様子を見ていた義手をテーブルに戻し父親の方に向き直る。
「たぶんね。昔は葬式をする時に教団騎士が同行してたんだ、冥土への露払いとか……そういう意味合いで。だから教団の資料に"教団騎士のだれそれが、どこそこの葬式に同行した"って程度なら残ってると思う」
「そうか」
自分から聞いたというのにバージルの相槌はあまりに素っ気なく、ネロは少しばかり機嫌を損ねかけた。
「なんだよ、フォルトゥナに住んでるどなたかの生死でも気になるってか?」
「……ビアンカという、女のな」
適当に煽ってやったつもりだったというのに、まともな返事が来たことでネロは目を瞬かせる。
聞いたことも無い名前だ、魔剣教団の一件以来フォルトゥナの住人にはできるだけ気を配ってきたつもりで、なおかつフォルトゥナの顔役にまでなった自分が聞き覚えのない名前と感じるのはつまり。
「俺が知る限り、フォルトゥナにそんな名前の女はいねぇな」
「……そうか」
少なくとも教団の事件が収束するより前に死亡したか、どこかへ出ていったのだろうと考えられる。そう告げてもバージルの横顔に変化はない。細めた目、その視線の先にあるのは恐らくこの世のものでは無いのだろう。