第5章 母の痕跡
翌朝、バージルはネロと共に街を歩いていた。
フォルトゥナの空は青く澄み、陽の光が古びた石畳を温かく照らしている。かつての魔剣教団の影を残しながらも、人々の暮らしは戻りつつあるようだった。
「まずは街の中のポイントを潰す。その後、森と城だな」
「分かってる」
ネロは歩きながら、大剣レッドクイーンの柄を軽く回した。
「にしても……不思議な感じだな」
「何がだ」
「こうして一緒に仕事するのがさ。俺とアンタって、最初に会ったときはまともに話す前に腕もぎ取られたし」
軽い調子で言いながら、ネロは右腕を広げてみせる。かつてバージルに奪われたその腕は、人間と変わらないそれとして再生しており、その上に今は義手──デビルブリンガーの代わりを想定して作られたデビルブレイカーが装着されている。
バージルは視線を落とし、一瞬だけ目を細めた。
「あの時のお前は、弱かった」
「は?」
「今もまだ未熟だがな」
「……ああ、そうかよ!」
苛立たしげに吐き捨てるネロに、バージルは口角をわずかに上げた。
奇妙なことに、息子とこうして言葉を交わすことに対する違和感は、徐々に薄れてきているようだった。