第4章 孤児院にて
キッチンの方へと消えていたキリエがトレーを持って戻る。トレーの上には湯気を立てる飲料と、先ほど彼女が「カントゥッチ」と呼んだものだと思われる焼き菓子が乗っていた。これは彼女の手作りだろうか?恐らくそうだろう。
長机の長辺で向かい同士に腰を下ろすネロとキリエ、そしてネロの隣にバージルが座る形となり、ネロが真っ先に一つ焼き菓子を手に取り、ぽいと口に放り込む。紅茶にも口をつけながら咀嚼し、そうしながら更に話題を続ける。
「悪魔が出る場所は大体決まってる。森か、城か、あとは時々街中。最低でも街中の分は全て封じ切りたい、それさえ済めば他はどうにでもなるしな」
「そうか」
明日から取り掛かるぞ、と告げるネロの声はあまり明るいものではない。きっとこれからのことを案じているのだろう。減らない悪魔、危険に晒され続ける人々。バージルという援軍によりそれらの危険が減るとはいえ(事実ダンテとバージルのはた迷惑もしくは悪魔迷惑な大喧嘩で魔界の悪魔は確実に減ったらしい)、この先この街がかつてスパーダに守られていた時のように安心して暮らせる時は果たして来るのだろうかと、ネロは以前に零していた。
彼にとってフォルトゥナの住人は必ずしも良い人ばかりではないが、それでもキリエが愛しクレドが守ったこの街を、今度は俺も愛して守っていきたいんだ、と。
『スパーダに成り代わりたいとか、そういうことじゃないんだ。あの糞爺と同じことを考えてるわけじゃなくて……ああくそ、よくわかんねぇ』
考えをまとめるのがかなり苦手な様子であるこのスパーダの末裔の青年を見守るのも、きっと自分にできることなのだろう。バージルは聞き上手ではないが、フォルトゥナへの旅路は100%聞き役に回っていた。
いろいろ難しく考え込んでいるのだろう、険しい表情をしているネロにキリエは優しく微笑みかける。そうして腰を上げ、そのまま手を伸ばし指先で彼の眉間に軽く触れた。
ネロはとたん険しくしていた表情を、まるで毒気が抜かれたかのようにきょとんとさせる。彼女は微笑みそのままに言った。
「また険しい顔をしてる、そのままじゃ眉間にしわができるわ」
「……気を付けるよ」
冗談めかした声音から察するに彼を案じてわざと重苦しい空気を壊そうとしたことが伺える。彼もそれがわかったのか思わず口角を上げて、ネロは頷いた。
