第4章 孤児院にて
「キリエ! その人だぁれ?」
家に入ると玄関とほぼ同時にリビングが広がっていて、そこに10人ほどの年齢層はバラバラな子供達が思い思いのことをして過ごしていた。彼らは一斉に振り返って、見知らぬ新入りを物珍しそうに眺める。
フォルトゥナの閉鎖的な社会の表れだろう。彼等は見知らぬ人間に対する耐性があまりないと思われた。が、その中で好奇心旺盛な少年がキリエに向かって声を上げる。それに対してキリエは優しく目元を緩めて答えた。
「ネロのお父様よ、皆失礼のないようにお行儀良くできるかしら?」
「できたらチョコラータ作ってくれる?」
「そうね、みんなが仲良くおとなしくいい子にしていられたらとびきり美味しいチョコラータと、フルーツもサービスしてあげるわ」
やったー!と無邪気に彼らは喜んで、キリエにいい子アピールをするべく仲良く、煩過ぎない程度に静かに遊び始めた。おそらくチョコラータとやらはそれだけの効力がある魅惑のメニューなのだろう。
「大丈夫なのか、キリエ……今月もあまり余裕ないって言ってたじゃないか」
こっそりネロが問う。パッと見た限り裕福とはいえなさそうだとは感じていたが、やはり若い二人で懸命に助け合って生きているのだろう……キリエが纏っているのは着古されたワンピースだし、ネロも普段着にはぼろが見え、子供達の服も継ぎ接ぎが目立つ。
『あんたラッキーだな、晩飯ならあるぜ。キリエはいつも作りすぎる』
ふと、あの時ネロがかけてきた言葉を思い出す。ガレージの外に得体のしれない男が立っていてなおそんな言葉をかけてくることに面喰ったものだったが、そういう助け合いの精神で育てられてきたのだろうと思えば納得してしまう。普通の人間からしてみれば異様な容姿の孤児だった彼を受け入れ、一人前に育てた家族だ。そういう方針だったとしても何ら不思議ではない。
その容姿や背景、悪魔に追われ続ける血筋のせいで人間に受け入れられた経験が皆無であるバージルには容易に理解できない考え方ではあるが。
「大丈夫よ、心配しないで」
対するキリエはやはり穏やかに微笑んで答えた。それでも心配せずにはいられないらしいネロは勢いよくこちらを振り向いてこう言い放つ。
「そういうわけだ、親父。協力しろ」
「何にだ」
バージルは思わず聞き返す。とはいえ今から何を言われるかは何となく察してはいたが。
