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【DMCバージル夢】父と子と

第4章 孤児院にて


 そこまで熟考したところでバージルは右脇腹に痛みを覚え、それが息子からさりげなく小突かれたことによるものだと認識した。キリエに聞こえない程度の声量で“おい、何か言えよ”と促されてようやく自分がキリエの自己紹介を聞いたうえでそれに対する答えを一切口にしていなかったことを思い出す。見れば彼女は気づかわし気にこちらの様子をうかがっていた。

「……バージルだ」

 それだけかよ!とおそらくネロは心の中で叫んだことだろう。しかしそれ以上に何を話すべきか判別が難しかった。
 “俺がネロの父親だ”? “息子が世話になった”? そんな薄っぺらい言葉が何の意味を成すというのだ。こっちはといえばネロの誕生を一切関知していなかった上に彼の目の前に現れたと思えばその腕を無残に切り落とし、一歩間違えれば殺していたかもしれない張本人だというのに。

 ネロはかの一件についてキリエには殆ど話していないらしい、もちろん腕がなくなってしまったという事実はキリエの目の前で起きた大事件であり、そこは説明をしたらしいがその犯人が魔王になりかかった悪魔だったとは伝えても、それが実の父親バージルであるところまでは話せなかったらしく。

 仕方あるまい、その事実はあまりに酷過ぎる……当のネロは何とか整理して(決して納得はできずとも)受け入れつつあるだろうがキリエにそれができるとは限らないのだから。

 突然現れた何者かに腕を斬られました、その犯人を追いかけたら遠くの都市でなんだか凄いダンジョンが出来上がっていてそいつが実は魔王だったということを知りました、更にその魔王がとんでもない手段で手が付けられない化物になったかと思えばそれが実は自分の源となった実の父親で、しかも自分の野望のために世界を滅ぼしかけていましたー……人間としての心を学んだ今ならわかる。彼女の身になれば全く笑えない。

 唯一の救いはキリエが、ネロが腕をもぎ取られる瞬間そのものを目撃していなかったことと、彼女が駆け付けた時に自分が閻魔刀で立ち去っていたためもうあのガレージにはいなかったということだ。もしこの何れかが実現してしまっていたら……もしかしたらこの出会いはなかったかもしれない。ネロが一人ですべての事実を飲みこんだからこその結果なのだ。
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