第4章 孤児院にて
孤児院、と書かれた看板のある小さな家が彼の自宅だという。子供達の声が溢れる活気的な雰囲気に包まれたその家はネロと彼の最愛の恋人によって支えられている。
エプロンを脱ぎながら玄関より出てきた美しい娘は、その美貌に相違ない清らかな笑みを以てバージルを出迎えてくれた。
「キリエ、と云います」
二十数年ぶりのフォルトゥナは自分が知る頃の姿とずいぶん様変わりしたように思う。ここまでくる間にネロからここ数年で起こったことはかなりかいつまんで説明されていたためその理由も納得はしていたのだが。
教皇サンクトゥスの暴走と魔剣教団の凶行、オリジナルの地獄門とそのほか複数のレプリカによる大規模の悪魔襲来で多くの人が犠牲になり、教団が作り上げた偽りの[[rb:≪神≫ > スパーダ]]とそれを止めようとした[[rb:神の子 > ダンテ]]により街の建造物も随分倒壊したという。
サンクトゥスは最期まで、 スパーダの幻影から逃れられなかったのだ。
教団関係者のほぼ全てが帰天していたがために教皇本人から一番下っ端の騎士団員まで全ての人間が一人残らず行方不明、もしくは痛ましい姿で見つかったのだとか。
この事態の根底にあったのが教皇の企んだマッチポンプ計画であり、更にほぼすべての教団構成員がそれに協力していたという事実は被害にあった住人からしてみればあまりに残酷なものであり、そして教皇が求めたという全ての元凶が四半魔のネロであったとあってはネロ本人には一切の非も落ち度もないことととはいえ彼らからぶつけられる、彼らですら理屈で説明しきれない恨みつらみ風当たりは決して小さいものではなかったという。
そう話すネロの表情は、言い表せないがあの事件から今に至るまでにかなりの苦労があったと推測できた。最初の一年が特にひどかったとも、彼は小さい声で零している。それでも彼が心を折らなかったのは、ともに事態の収拾にあたってくれた恋人の存在がとても大きかったらしい。