第3章 Episode:3
『エレーン!この前振り~!!』
「ナギーアさん?!」
声がした方を見てみると、黒く美しい髪をひとつ結びにし、前髪の端をあみこみ、風に身を任せ穏やかに靡かせている女性の姿があった。
俺は一瞬で、それはナギーアさんだということが分かった。
「えぇ、大丈夫なんですか此方に来て…。」
『うん!でももうすぐ戻って色々やって寝たいんだ。
明日の夜は勧誘式だし、明後日は会議だからさ』
まったくもう…。と言わんばかりのため息をつき、エレンが座っていたベンチの隣に腰を下ろした。
尊敬する人の美しい横顔が視界に入り、不思議と視線を釘付けにする。
「ーきれいな横顔」
『へっ?』
「あっいえ!気にしないでください!!」
しまった、と思い彼女から視線を外す。
いやいやいや、相手には素晴らしいお相手が居るのになに考えてんだ俺…。
ミカサだっている。こんな馬鹿な考えはやめだ。
『ぁ~…。
…エレンの同期…つまり104期生でさ、調査兵団希望の子っていたの?』
彼女も少し恥ずかしくなったのだろうか?
必死に話題を変えたことが可愛らしく、同時に嬉しく思えた。
「はい、たくさん…かどうかは分かりませんけど、居ました。
ミカサとかアルミンとか、サシャに…。コニーとジャンは憲兵だったなぁ。あ、あとライナーとかベルトルトとか」
楽しそうに話すエレンに思わず笑みが溢れる。
ーが、その顔は一瞬にして不安色に染まった。
「…けど、初めて巨人化した時、ミカサもアルミンも悲しませちまったし…俺にはみんなと合わせる顔が…無いんです。」
ちょうど1ヶ月前のことだろうか。
エレンが巨人の力を初めて使い、アルミン・アルレルトの作戦のお陰で生き残った兵士、及び卒業訓練生を救った時の話。
ただの風の噂程度に聞いていたが、“巨人化”という大きな力を齢15の青年が請け負うのはかなり荷重なのだろう。
期待され、馬鹿にされ、バケモノと貶すものもいる。
それをたった一人の青年が全て受けるのだ。心中穏やかではないだろうし、正直そんなに穏やかな笑みが出てくるのは不思議なほどだった。