第2章 避難生活
避難生活は想像以上に過酷だった。
食糧不足が続き、大勢の避難民たちは荒地の開拓作業に回された。
雪が降り、冷たい風が肌を刺す。手がかじかみ、指の感覚がなくなるが、手袋なんて贅沢なものはここにはない。
それでも、生きるために、わたしたちは必死になって荒れた土地を耕した。
でもこの忙しさのおかげで、何も考えなくて済むからよかったとも思った。
エレンは作業で体がクタクタになり、寝床に戻った後も、「巨人を駆逐するために筋肉をつけなきゃ」と腕立て伏せを始める。
最初はそんなエレンを見ているだけだったけど、ミカサもアルミンもエレンに続いて筋トレをはじめたため、わたしも、いつの間にか一緒になって筋トレをするようになっていた。
エレンはお母さんを殺した巨人を一匹残らず駆逐するために、調査兵団に入るのが夢らしい。
わたしにはエレンみたいに「巨人を駆逐する」なんて目的はない。むしろ、巨人なんてもう二度と見たくないと思っている。
ただ、ひとりになるのが怖いから、流されるままに同じ生活をしているだけだ。
こんな状態でみんなと一緒にいていいのかな……。
筋トレが終わり、わたしは仰向けになって天井をぼんやりと見つめていた。そんな時、同じ体勢で天井を見ていたエレンに声をかけられた。
「サクラ」
「なあに?」
「あの時さ、サクラが母さんのこと、最後まで諦めないでくれて嬉しかったんだ。」
エレンの言葉に、胸がチクリと痛む。
言っているのは、エレンのお母さんが瓦礫の下敷きになっていた時のことだ。
巨人が迫ってくる中で、恐怖を必死に抑えながら瓦礫をどかそうとしていた。
――あの時、わたしは人が巨人に食べられて死ぬところを見たことがなかった。だからきっとあんな無謀なことができた。
今のわたしだったらきっと‥‥