第1章 これまで
ペロリと私の血が着いた指を舐めた怪人は、驚いた表情を浮かべると、ニヤリと口角を上げた。
「…なんだ、この高まり…高揚感…。」
手をグーパーさせて、自身の力を確認するような仕草を見せると、嫌な目付きで私を見た。
「なるほど、ここに引き寄せられたのはこのせいか…。」
独りでに呟いて笑みを零すと、やがて獲物を見る鋭い目つきに変わり、間髪入れずに襲いかかってきた。
「試しに切り刻んで骨の髄までしゃぶり尽くしてやる!!」
恐ろしい形相に咄嗟に歯を食いしばり、目を固く瞑ったその時。
「よく頑張ったな。」
聞き覚えのある声に、下を向いたまま目を開ける。
目の端では緑色の体液と、内容物が下品な音を立てて地面に落ちる様子を捉えていた。
顔を上げると、体液で汚れた白いマントと丸い顔。
それを見た瞬間、力が抜けて膝から崩れ落ちた。
支えようと肩を掴んでくれたが、両肩に傷がある為、痛みで顔が歪む。
「あ、悪い。」
パッと手を離されると、ヘナヘナと情けなくその場にへたり込んだ。
「うわ、お前!すごい怪我してるぞ。」
今更痛み出した傷を抑えると、心配そうに顔を覗き込んできた。
それでも自分より先に、助けてあげて欲しい人がいる。
痛む肩を抑えながら、ゆっくり瓦礫に足を挟んだおばさんを指差すと、彼は重い瓦礫をものともせず持ち上げた。
無事に脱出できた涙と汗でぐちゃぐちゃになったおばさんがごめんね、ごめんね、と何度も謝りながら背中をさすってくれる。
その手の温かさに、生きていてくれて良かったと心から思った。
安心すると保っていた気が緩み、意識が朦朧としてくる。
少し血が抜けすぎたかもしれない。
瓦礫の上に横になると、おばさんと丸い顔が何か言ってくる。
なんだろう、
だめだ、眠い。
やがて意識は暗く落ちていった。