第1章 これまで
ホコリを吸って肺がイガイガする。
手で口を覆いながら、外の明かりを頼りに進めば、やがて外の新鮮な空気を感じる。
何とか外に這い出られた私がおばさんの手を引いて脱出を手伝っていると、嫌な気配を感じる。
急いで振り向くと、そこにいたのは物々しい雰囲気の怪人。
「なんだ、まだいるじャん。」
明らかにいつもとはレベルの違う雰囲気に背筋が凍る。
よく見ると周りの建物や道は大きく崩れて、事の大きさを知った。
おばさんは、瓦礫に足が挟まって思うように抜けられない状態だ。
置いて逃げる選択肢だってもちろんある。
あるけど
「…おいおい。ハハッ嘘だろ?」
私は怪人を前に腕を大きく広げて、おばさんを守るように立ち塞がった。
「無駄だって分からないか?周りを見てよォ。」
こんな威力があるのに、無駄と言われたらそうかもしれない。
でも、なぜだろう。守りたい、守らなきゃ。
「…無駄でも構わない…私は逃げない。」
目の前の怪人を柄にも無く睨み付ける。
何も感じないと思ったけど、今確かに私には感情があった。
守りたい。
あの優しい笑顔を
「あ〜、おもしれェ。」
高らかに笑う怪人が一通り笑い終えると、ジロリと私を見た。
「…我慢大会ってか?」
そう言った瞬間、鋭い一撃を放ち、それが私の頬を切り付ける。
チリッとした痛みと遅れて血が垂れる感覚。
それでも姿勢も表情も変えない。
「おー、頑張れよォ。」
続いて素早く飛んできた攻撃は肩を貫通する。
それでも変わらない表情に、怪人は愉快そうに攻撃を放つ。
肩、腿、脇腹、と急所を避けて傷を作るが、やがて無反応な私にイライラを募らせていく。
「なんだァお前?つまんねェな。」
そう言いながら接近してきた怪人は、逆の肩に針状の指を刺す。
「…なんか…甘い匂いがすんなァ、お前。」
すると何やら近くに来て違和感を感じた怪人が、肩に刺したまま私の首筋を匂う。
やがて何かに気付いた怪人は指を引き抜くと、その指を嗅いだ。
「分かった、お前の血だ。」