第3章 それから
「まぁでも、あれだ。うん。いや…待てよ…」
パクパク口を動かしながら忙しく表情を変えるサイタマさんを見て、もしかして既に自分から離れてもらう術を探していたんじゃないかと想像して息が苦しくなる。
視界が狭く暗くなってきて、自分の中で彼らの救いが当たり前になっていたのだと痛感した。
瞳を伏せている私に口ごもっていたサイタマさんが気付いて、言葉を探すのをやめる。
しばらくそれを見ていたかと思えば、一言
「お前はどうしたい?」
と言った。
ヒュッと空気を飲んで、口を噤む。
正直に言ってもいいだろうか。
悩んで黙り込んでいる私に、ふと昼間の無免ライダーさんの言葉が蘇る。
__普段思っていたことを正直に話してくれた方が嬉しいし__
__素直になれない人が素直になってくれた瞬間に信頼されているんだと分かって嬉しくなるよ__
ぐっと拳を握って覚悟を決める。
そして
「私は…この先も、サイタマさんとジェノス君といたいです。」
今度は酔っていない。
嘘偽りない正直な言葉にサイタマさんはニッコリ笑った。
「じゃあ、そうしようぜ。」
親指を突き立ててグッドのポーズを取ると、悩んでいたのが馬鹿らしいくらいに簡単に言ってのける。
「これからも怪人が現れた時は助けを求めてしまいます。それも何度も…迷惑では無いのですか?」
あまりにあっさりとした返事に、サイタマさんが優しさから無理をしているのではないかと不安になった。
「あー…俺、実を言うと強い奴と戦ってみたくてさ。普段はワンパンで終わっちまうだろ?」
するとそう言って頬を指で掻きながら目を逸らす。
「お前が呼び寄せてくれたら、いつかは強い奴と戦えるんじゃないかってちょっと期待してんだよ。」
額に汗を一筋滲ませながら、子猫のような上目遣いでこちらを伺う。
利用するようで申し訳ないというような態度に、嫌われたり引かれたりするのが怖いのは私だけでは無いのだと分かって一気に気持ちが軽くなった。
普段は強いのに急に小さくなってしまったサイタマさんに、ついクスッと笑ってしまう。
更に言うと、ホッとしたのだ。
「これからも、よろしくお願いします。」
笑顔を取り戻し、喜びを取り戻し、一つずつ自分を取り戻していく。
今はただ、まだウィン・ウィンの関係でいられることを喜んだ。