第3章 それから
「……。」
次の日。
目が覚めた私は頭を抱えていた。
あぁ、やってしまった…
なんだ私のヒーローだよって…傲慢で小癪で生意気な言い方は……
守ってもらっておいて烏滸がましいにも程がある。
「〜…!」
恥ずかしさのあまり思い出す度に顔を手で覆う。
一体どんな顔で2人に会えばいいのか、今までどんな顔で会っていたのか、考えれば考える程に分からなくなる。
……
…………
無理だ…会えない。
パンパンに腫れた目元を冷やしながら悶える。
今日のバイトを休んでおいて良かった。
こんなに瞼を腫らしたまま行けば、また面倒なことになっていただろう。
波打つように襲い来る羞恥心で悶々としながら、奥歯が痒くなるような感覚に歯を食いしばる。
感謝を伝えたいのは本心ではあったがあんな赤裸々に言ってしまうなんて、本当にどうにかなってしまいそうだ。
穴があったら入りたいとはまさにこのこと。
いつも2人が側に居ると安心するが、今だけは側に居て欲しくない。
(なんなら消えてなくなりたい。)
____
目が覚めてから羞恥心に耐えて数時間後。
冷やし続けたお陰でまぶたの腫れが引いた頃、居てもたってもいられなくなった私はバッグを手に持ち出掛けることに決めた。
扉を少し開いて外の様子を確認する。
隣から人が出てくる気配がないと分かると一目散に外に出て、音が鳴らないように扉を閉める。
そのまま忍び足で階段へ向かうが、切実な願いは届かず背後で扉の開く音が無情に廊下に響いた。
「ユズさん、お出かけですか?」
そういえばジェノス君には生体反応でバレるのだった、とコソコソ家を出ても無意味であったと気付く。
ジェノス君の声が聞こえても、振り向かずに
「…うん、ちょっと、お仕事に。」
とだけ短く言って早足で退散する。
心臓がバクバクなのと焦りで頭が真っ白になっていたため、カタコトの言葉になってしまった。
「行ってきます…!」
無言で立ち去って感じが悪くなると嫌だったので階段に差し掛かる前に大きめの声でそう言ってから階段を駆け下りる。
ジェノスくんはその背中を無言で眺めていた。