第3章 それから
ジェノス君はそう言うがいなや窓から飛び出そうとするが、
「終わったぞー。」
というサイタマさんの気の抜けた声を聞いて踏みとどまる。
私は、良かった…と安心して立ち上がろうとしたが、情けない事に足まで震えていた。
産まれたての小鹿のように、プルプル震える足を引きずって壁伝いに歩く私を見たジェノス君が、不意に近くまで来たと思えば視界がグンと宙を仰ぐ。
横に抱き上げる形、俗に言うお姫様抱っこで抱えられた私は、慣れない状況に手が迷子になる。
しかし、せっかく運んでくれるのだからと恥じらいの気持ちを捨てて彼の肩に控えめに手を添えた。
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「…面倒なのでこいつはここで燃やしましょう。」
私を抱えて外に出たジェノス君は地面で伸びている男をまるで虫を見るような目つきで嫌悪感を露わにしながら言う。
それにサイタマさんは眉間に皺を寄せて
「人殺しだぞ、それ。」
と同じく嫌悪感を露わにしながら言った。
流れでサイタマさんが抱えられてる私に視線を向けると、ジェノス君の肩に添えた手を見て「うわっ」と声を上げる。
「手首真っ赤だぞ。大丈夫か?」
血は出ていないものの、未だに痛々しく赤い縄の跡。
「かなりキツく結ばれてて…でも、結果解いてくれたので、」
安心させようと言葉を選んでいると、サイタマさんが眉を下げて
「すまん。悪かった。」
と言って私の頭をポンポン叩いた。
何故謝るのかと思ったが、どうやらあの伸びている男はサイタマさんの熱心なストーカーらしい。
今にも焼却しそうなジェノス君と共にストーカーに哀れみの目を向ける。
歪んだ形でしか自分を表現出来ないのかもしれない。
「とりあえず、あいつは誘拐で通報しといたから、大丈夫だろ。」
サイタマさんが伸びをしながら言った言葉を聞いて少しホッとする。
かなりの危険人物だもんね…。
牢屋に居てくれるなら、その方がいい。
あの狂気の眼差しを思い出してしまい再び身震いすると、倒れている男から目を離した。
「ユズも無事に回収できたことだし、帰るか。」
にっこり笑ったサイタマさんに2人で頷き、私達はその場を後にした。
「……ククッ、ユズ。覚えたぞ…。」
倒れていた男、音速のソニックがそう呟いているとも知らずに。