第3章 それから
「お前の血がアイツらに影響しているのか?」
無事に読みが当たって怪人の襲撃が落ち着いてようやく訪れた静寂の中、大人しく膝を抱えて座っている私に武器を手入れしていた男はそう言う。
これでは隠した意味が無かったなと思いながら小さく頷いた。
「…私の血を飲むと力が漲るとかって、勝手に噂されてるんです。」
おかしい話ですよねと冗談めかして言ったが彼は思いの外興味を示す。
「それは人間にも効くのか?」
ギョッとして男の目を凝視する。
「いや、無いですよ。そんなわけ…」
試したことも求められたこともないから正直分からない。
自分が今どんな顔をしているか見ることはできないが、多分引きつっている。
恐ろしい事を考える男に再び恐怖心が湧きはじめる。
「試したことがないなら、試してみるか?」
先程まで疲労困憊だった彼の狂気に満ちた表情に震え上がった私は思わず後退る。
強さを望むのは怪人も人も同じ。
もし人にも効果があるとしたら…
サイタマさんやジェノス君、職場の先輩、ヒーロー達、全ての人の顔が走馬灯のように思い浮かぶ。
また誰かの不幸を生んでしまう未来を想像して急激に吐き気が込上げる。
口元を押えて丸まった私にジリジリと近付いてくる男。
助けて…!
反射的に心の中でそう願った。
その時。
「おーい、いるんだろー。出てこいパニックー!あれ、なんだっけ…ホリック?モロッコ?」
「ソニックだ!!」
聞き慣れた声が外から聞こえてくると、こちらに向かっていた男の足が止まり、叫びながら勢いよく窓の方へ飛んだ。
「来ると思っていたぞ、サイタマ!!」
おもちゃを貰った子供のように嬉しそうに言うと、そのまま窓から飛び降りていった。
恐怖や圧から解放され、安心感から涙が滲む。
「ユズさん!!」
手の震えを抑えていると、焦ったようなジェノス君の声が目の前から聞こえる。
顔を上げれば、そこには元気そうな彼の姿があった。
慌てて駆け寄ってきたジェノス君が私の顔や手元を見ると急に黙り込む。
そして握り込んでいた私の手を両手でギュッと包んだ。
「……排除してきます。」