第3章 それから
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「……と、言うわけでして。」
話している間に何度か怪人の襲撃を受けていたが、血の効果の事は念の為伏せて他の全ての経緯を話した。
疲れきったようにしている彼は最早サイタマさんと戦える余力は残っていないように見える。
「そうか、なら殺して外に吊るしておいていいか。」
話を聞き終えた彼は無気力にそう呟いた。
「やめてください。」
面倒な人質を攫ってきてしまったことを後悔しているのか否か、あまりに可哀想なのでサイタマさんに早く助けに来て欲しいところではある。
色んな意味で助けて欲しい。
彼の疲れた顔を見れば自分の腕の痛みなど…と言いたいところだが、そろそろ本当に痛い。
「あの…」
控えめに声を掛けると、「なんだ。」と短く返事が返ってきた。
「腕が、痛くて…。」
正直にそう言うと、彼は横目でこちらをジッと見てくる。
鋭い視線に耐えられず何度か目を逸らしてしまうが、やましいと思われたくないため頑張って見つめ返す。
するとまたため息を吐いてから、後方に回って縄を解いてくれる。
てっきりダメだと一蹴されるかと思っていたが、私に戦闘力が無いことを悟ってくれたのだろうか。
縄を解かれて自由になった手を前に持ってくると手首が縄で擦れて血が滲んでいた。
あれ、もしかして…
「すみません、水道って…」
「ない。」
ですよね…
あってもここは恐らく廃屋だから水は出ないだろう。
諦めて手首をぺろぺろ舐める。
「……。」
おかしくなった訳ではないです。
だからそんな目で見ないでください…どうか引かないで。
視線に耐えながら、鉄の味を耐えながら、全て舐めとる。
するとどうやら出血は止まっているようで新たな血が滲むことは無かった。
「その縄は遠くに捨てた方がいいかもしれません。」
痛い視線を誤魔化すようにそう言うと彼の視線は縄に移る。
私の血がついた縄を見て察してくれたのか、一瞬で彼の姿が消えた、と思ったらすぐに現れた。
「捨ててきた。」
…最初に会った時から思ったが、彼は瞬間移動ができるのか?
あまりに早い動きに驚いて一時固まってしまったが、すぐに我に返りこれで恐らく怪人の襲撃は治まるだろうと確信して男にお礼を言った。