第3章 それから
「あ、そういえば」
無事に帰宅して互いに家に入ろうと扉の前に立った瞬間、サイタマさんが思い出したように声を上げた。
ドアノブに手を掛けていた私は動きを止めてサイタマさんを見る。
「お前、なんであそこにいたんだよ?」
視線が合った瞬間、訝しげに言う彼に目をぱちくりさせる。
色々理由はあるがなんて伝えようか悩んで、うーんと小さく唸る。
「心配だった、から…?」
捻り出した返答は合っている様な合っていない様な微妙なものだったが、サイタマさんの何を考えているのか分からないような無表情としばらく見つめ合った後、彼は満足そうな顔をして
「そっか。」
とだけ言うと部屋に入って行った。
と思ったらガチャッと扉が開いてまん丸の顔を覗かせる。
「だけど危ねぇからもう来んなよ。」
再び訝しげな表情をする彼にコクコク頷くと、部屋の中に吸い込まれるように引っ込んでいった。
バタンッと扉が閉まる音が廊下に響き、静寂が訪れる。
部屋を歩く音の振動を微かに感じて、自分も部屋に入ろうとドアノブを引いた瞬間。
「捕まえた。」
口元を布のようなもので塞がれ、身動きを封じられる。
抵抗するがビクともしない。
暴れるうちにツンとした匂いが鼻を刺し、次第に力が入らなくなっていく。
これはマズイ。
「ー〜ッ!!ー〜!」
必死にサイタマさんに助けを求めるが届かない。
やがて意識が薄れていき、彼の部屋の扉へ伸ばしていた手は力を失って落ちる。
涙が滲んだ瞳は重い瞼によって閉じられ、私は完全に意識を失った。