第3章 それから
雨の中トボトボ歩いていて思い付いたのだが、今アパートに帰っても誰もいない、ということは仮に家に怪人が突撃してきた場合に詰む。
家をボコボコにされる→疲れて帰ってきた2人が悲しむ
……
くるりと方向転換し、J市の方へ向かって歩き出す。
歩いて辿り着ける訳はないのでJ市の"方向"へ。
そうすればきっと怪人を倒した帰りの2人に会えるだろうと想定して
ビニールの傘にパチパチと雨が当たる音を聞きながら、時折通る車のブレーキランプを意味もなく目で追う。
いっそのことタクシーを捕まえてJ市まで行ってもらおうかとも思ったが、運転手さんが嫌がるだろうなと思って断念した。
すれ違うのも嫌だし…
そんなこんなで道程は思っているよりも暇で、頭の中では思いついては消えてを繰り返していた。
落ち着かない気持ちのせいでもある。
拭いきれない不安が足を動かす原動力になっていた。
そうして歩き続けるといつもの展開がやってくる。
「オマエノ…血ヲモラウ。」
いい加減もう狙うのは諦めて、たまには休んでみてはいかがだろう。
せめて1週間に1回、いや1ヶ月に1回でいい。
よくない。0回で頼みたい。
せめて私の足が速ければ良いのに、と無い物ねだりをしながらどうしたものかと考える。
しつこい怪人の襲来に歩いていた足を止めて、目の前にいるトカゲのような姿の怪人を見て小さくため息を吐く。
「あの…」
「血ヲヨコセ」
「ちょっと…」
「血ガタリナイ」
「だから…」
「血ヲ」
話しかけようとすれば、それを遮って一辺倒な言葉を発する怪人に段々イライラしてきて眉根を寄せる。
「人の話を…」
ピキりながら説教しようとすると、その瞬間強い風が吹く。
風圧に押された傘が手を離れて飛ばされてしまい、自身は身を屈めて飛ばされないように踏ん張った。
一瞬の風が通り過ぎると鋭い風切り音が聞こえて、目の前にいた怪人にバツ型の大きな切れ目が入る。
唖然と眺めていると、身を支える力を無くした怪人の体が置物のように倒れた。
雨と体液が混ざり滲んでいく様に理解が追いつかず立ち尽くしていると、背後から声がかかる。
「女、お前はサイタマを知っているな?」