第3章 それから
ソワソワと落ち着かない状態のままいれば、それを察した先輩達がJ市に家族がいるんじゃないか、友達がいるんじゃないかと心配させてしまっていた。
家族では無いし、友達と言われると微妙だが一応全て否定はした。
しかしあまりにも私がニュースを気にするものだから、1人の先輩があ!と思いついたように声を上げた。
「もしかして恋人!?」
それに周りにいた先輩は同情心やら好奇心やら何やらの表情でこちらを凝視する。
「違います。」
全然見当違いなのですぐさま冷静に否定するが、なぜか妙な空気になる。
うん、うん、と何度か頷きながら「大丈夫よ。」等の気を使った言葉を掛けられる。
…あれ、もしかして恋愛関係は職場にバレたくない人だと思われてる?
「いえ、本当に違うんです。」
改めて否定するが、周りは納得してしまっていてまともに聞いてくれない。
なんだか少し面倒くさくなってしまったな、と思いながら仕方が無いのでそういうことにして、明日になれば忘れてくれるだろうと諦めたのだが、そこから更に話は発展する。
「今日は仕事にならないだろうから、帰らせた方がいいんじゃない?」
「そうよ、ちょっと可哀想。私達そこまで鬼じゃないし…」
「鬼って警戒レベルのこと?」
「違うわよ!」
どんどん勝手に盛り上がる会話に、慌てた私は両手を胸の前で振って意思表示するのだが、もうこうなったら止まらない。
「ユズさん!上がっていいわよ!」
意志を固めたように強い眼差しで先輩が言う。
あー…もう、どうにでもなれ。
____
なぜかJ市に住む恋人の身を按じている事になった私は、大人しく荷物をまとめ、大人しく帰路につこうとしている。
いや何をしてんだ、私は。
「…お先に失礼します。」
玄関まで見送ってくれた先輩が傘を手渡してくれた。
「元気だしなさい、きっと大丈夫だから。」
肩をポンポンと叩いてエールを送ってくれる先輩。
優しい…でも違うんだよ…先輩…
「本当に恋人じゃな…」
「さ!雨が酷くなる前に早く行きなさい!」
最後の抵抗で否定チャレンジをしたが、呆気なく遮られ。
もうこれでいいんだ、と自分に囁いて歩き出した。