第3章 それから
「なんかねJ市に強い怪人が現れたみたいで、怪我人も結構出てるっぽいんだけど、災害レベルは鬼だったかな。」
その話は先程も聞いたが、いまいちピンと来ない私は先輩の目を真っ直ぐ見ながら問いかける。
「どのくらいヤバそうですか?」
すると先輩はう〜ん…と唸ってから思いついたように言う。
「私達なら5秒で死ぬくらい。」
う〜ん…
ヤバそう。
漠然とした会話の中、J市の住民やヒーローの無事を願って祈りを捧げた。
____
窓を拭きながら灰色の雲と降り出した雨を眺めていた。
深海王と聞こえたが、やはり海から上がって来たのだろうか。
だとすれば雨は水だし強くなってたりして。
等と柄にもなく怪人に思いを馳せる。
何故ならば協会内はどこもかしこもその話題で持ち切りだからだ。
聞こえてくる話は全てそれなので聞き耳を立てる事も辞めた。
が、しかし
「鬼サイボーグも向かってるみたいだ。」
後ろを通り過ぎたヒーローが口にした名前にピクリと反応する。
鬼サイボーグって確かジェノス君じゃなかったっけ。
先輩が言っていた気がする…
ジェノス君が向かったのなら安心だろう、彼は強いし早いし滅多に負ける事はない。
負ける事はないはず。
「…」
でも何だろう、この胸騒ぎは。
嫌な予感がしてしまって、追い討ちをかけるように弟の姿がフラッシュバックする。
「S級ヒーローのぷりぷりプリズナーもやられたんだろ?スティンガーは意識不明の重体らしいし…」
被害者が沢山出ているなら正義感の強いサイタマさんがきっと一緒に行ってるはずだ。
大丈夫と自分に言い聞かせて落ち着こうとするが、周りの会話が不穏になって来る度に冷や汗をかく。
大丈夫。
大丈夫だよね…?
雑巾を握りしめて無力な自分はただ雨を眺めることしかできなかった。