第1章 これまで
戦いの際に移動したのか、少し離れた所で会話している2名の声はあまり聞き取れない。
感情的になる怪人を他所に、白マントはのっぺり立っているだけ。
かと思えば怪人が攻撃を仕掛けた次の瞬間、あっという間に勝負は着く。
いつも血飛沫を上げて倒れるのは怪人。
"いつも"と言うのには訳があって、実はこの光景は何度か経験があるのだ。
初めて見たのは高校生の時。
住んでいた街がめちゃくちゃに壊されて、瓦礫の下で運良く生きてた私が外の様子を伺うと彼が怪人を倒していた。
怪人に絡まれて面倒くさかった時も、無反応に逆上して殺されかけた時も、
それからバイトをしていたスーパーが半分無くなった時も。
命の危険を感じる時は必ず彼が現れたのだ。
その姿はまさにヒーローそのものである。
そして彼の虚空になった瞳に、勝手に親近感を感じていたのである。
「…あれ?お前…」
肩をグルグル回すストレッチをしながら歩いてくる彼が棒立ちする私を見つけると、何か思い当たる節があるのか近付いてきた。
「なんか、よく見るような…」
その場で悩むような仕草を見せる彼に、私は深く一礼をする。
それからさっき買い物した時に、オマケでもらった駄菓子のお煎餅を袋から出して手渡した。
何度も助けてもらってるし、一応。
「おっ、サンキュ。」
少し嬉しそうにした彼を見ると、何となく気分が良くなって会釈をしてから帰路を歩き出した。
この感じ、しばらく忘れてたな。
久しぶりに懐かしい顔を思い出しながら帰った。