第2章 ここから
ようやくサイタマさんのアパートに到着すると、階段を上るのが億劫な程疲れていた。
一段一段気合いを入れて目的の階まで到達すると、ヘトヘトになりながらサイタマさんの部屋の前まで歩いた。
ノックをしようとした扉はノックをする前に開かれて、中からジェノス君が現れる。
「ずいぶん遅かったですね。何かあったんじゃないかと…」
言いかけて止めたジェノス君は何かを悟り、部屋の中へ招いてくれた。
脚を引きずるようにリビングまで行くとサイタマさんの姿がない。
「先生は今風呂に入っています。」
何も言ってないのに言いたい事が分かる人妻のようなジェノス君は、フェイスタオルを渡してきた。
首を傾げる私に、彼は自身の頬をトントンと指し示す。
それで理解をした私が自分の頬をタオルで拭うと、タオルにはベッタリ怪人の体液が付いていた。
体を見渡せば服にも所々シミができていて、なんなら手のひらも擦りむいてるし、膝も汚れていた。
暗かったせいか全く気付かなかった。
ジェノス君は風呂場に行ってサイタマさんに声をかけていて、サイタマさんが出てくるまでに服を着替えてこようと机にケーキの入った袋を置かせてもらう。
ついでにこのタオルも洗って返そう。
風呂場に声を掛けるジェノス君の横を通り過ぎようとすると、彼は私の腕をガシッと掴んだ。
「帰るんですか?」
「…いや、着替えてこようかと…。」
あまりにも真剣な顔で言うから驚いてしり込みしながら伝える。
それを聞いて安心したのか、すんなり腕を離してくれたため真隣の自分の部屋へ着替えに戻った。
どうせ着替えるならとシャワーを浴びることにした私は、お得意のカラスの行水スキルで素早く入浴を済ませた。
汗もかいていたし、怪人の体液は浴びていたし、土まみれだったし、思ったよりも怪我してたしで風呂に入って本当に良かったと思う。
スウェットに着替えて脱いだ服とタオルを洗濯機に放り込むと、髪を拭くためのタオルを首に掛けたまま再び隣の部屋を訪問した。