第2章 ここから
水配りが終わって汗を拭っていると、先輩も戻ってくる。
辺りはすっかり夕暮れ時であった。
「疲れた?」
先輩が戻って来るまでの間に空虚を見つめていた私を見て、先輩は小さく笑って言った。
「…少しだけ、です。」
隣に座った先輩に言葉を返すと、地面に列を成しているアリを眺めた。
疲れたのは嘘じゃない。
でも肉体的な疲れよりも脳の方が疲労を感じていた。
「何があったか分からないけど、あんまり気にし過ぎちゃダメだよ。」
項垂れていると思った先輩が私の背中をポンッと軽く叩くと困ったように笑う。
それに小さく返事をすれば、
「帰ろっか。」
と優しく言った。
先輩とヒーロー協会前で別れ、暗くなってきた道を1人歩く。
仕事が再開になったら連絡してくれるそうだ。
明日からしばらくは暇になってしまう。
……
…サイタマさん、落ち込んでないだろうか。
いやいや私が心配するほどサイタマさんはヤワじゃない。
でも、ちょっと
配給していて見かけた無傷のスーパー、帰り道とは逆方向だがそこへ急いで向かった。
____ピロリロ〜♪
『ありがとうございましたー。』
こんな状況でも営業してくれている貴重なスーパーの為、昼間は人が押し寄せていたから心配だったが無事に手に入れた。
手元の袋の中にはケーキが三人分。
少し高かった。でも職は手にしたし、こんな日があってもいいだろう。
逸る気持ちを抑えずに早歩きで帰路を進む。
辺りはすっかり暗くなってしまって人通りも少ないが、不思議と怖さは無かった。
無かったからか忘れていた。
「女、血を貰おうか。」
怪人に出会いやすい体質であった。
手に持った袋を大事に抱えて後退る。
サイタマさんの家からは距離があるので当然声は届かない。
近くにヒーローは見かけなかったし、私以外の人の気配もいない。
いつ以来かのピンチである。