第2章 ここから
一際大きな声で騒いでいたのはタンクトップを着た青年。
すごく筋肉がムキムキだが、ヒーローだろうか?
それに囃し立てられるように民衆は声を上げ、遂には辞めろコールを始めた。
大合唱になっていくのを見て、居ても立ってもいられず飛び出して行こうとする。
しかし、その瞬間に肩をポンポンと叩かれ、反射的に振り返るといつかのお爺さんがいた。
「やめとけ嬢ちゃん。」
お爺さん、もといシルバーファングさんが首を横に振る。
それを見て踏み出した足を戻す。
「男にはプライドがある、ヒーローにも。選択をするのは彼じゃよ。」
今私が出て行けば、サイタマさんの実力や実績に泥を塗ってしまう。
そんな事も分からずに飛び出して行こうとしていた自分が途端に恥ずかしくなった。
黙って見ているのが一番の選択であるという状況は心苦しいものであった。
彼はヒーロー。私にとっても街にとっても。
でも誰しもがそれを知っている訳じゃない。
しばらく大合唱を聞いていたかと思えば、難癖を付けて飛び出して行くタンクトップの男2人。
その誇らしげな姿を睨むように見下ろしていると背後から溜め息が聞こえて、そちらを見ればシルバーファングさんが呆れたように立ち去ろうとしている所だった。
「お嬢ちゃんはこんなくだらない世界など忘れて困っている人を助けてあげるその優しい気持ちを大切にするんじゃよ。」
私はその優しい忠告に静かに頷くと、サイタマさんに懲らしめられているタンクトップ達を尻目にその場を後にした。
私が見ていた事は知られない方がいいと思ったのだ。
私は私の出来ることをしよう。