第2章 ここから
「やる気に溢れているので目に止まってしまってな。」
ニコニコと話す優しそうなお爺さん。
初日だから確かに張り切っていたかもしれない。
だとしても、よく気が付くお爺さんだ。
「さて、若いパワーを貰ったことだしワシは行くとするよ。」
気配を消していても気付いたということは普通ではない。
なんせ大抵の怪人をスルーさせてきた自慢の気配消しスキルだ。
「行ってらっしゃい。」
普通にお爺さんを見送ってしまったが、もしかしたら凄い人だったかもしれない。
ま、いいか。とお爺さんが見えなくなった頃に清掃を再開しようとすると先輩が慌てて駆け寄ってきた。
「なんでそんなに冷静でいられるの!?今のS級ヒーローのシルバーファングさんだよ!?」
小声で鼻息を荒くして言う先輩に怒られるんじゃなくて良かったと胸をなでおろした。
実はヒーローをあまり知らないという事を伝えると、呆れたように驚かれた。
「本当に凄い人なんだから、ちゃんと覚えておきなよ!」
凄い熱量で語る先輩は多分お爺さんもといシルバーファングさんのファンなのだろう。
こうなったらヒーローはもうアイドルのようなものだ。
今更ながら面接に来ていた着飾った女の子達を思い出して、妙に納得してしまった。
こんなに沢山ヒーローがいるならば、ほとんどサイタマさんにしか助けられていない私は相当稀なのではと、世間とのズレを目の当たりにして軽いカルチャーショックを受けた。
やっぱり少しは勉強しよう。
そう心に決めて残りの清掃を終わらせるべく動き出した。
それからは特に問題が起きることも無く初日を終えることが出来た。
先輩は明日から見かけたヒーローの名前を全部教えるから!と仕事よりもヒーローの知識を叩き込もうと息巻いていて、シルバーファングさんのファンと言うよりヒーロー自体のファンである事が判明した。
一気に教え込まれるのは少し面倒だが、知らないまま居続けるよりはいいか…
制服から私服へ着替えて協会のビルから出ると、外には見た事のある緑のヘルメットの彼がいた。
「やぁ!君はこないだの…」