第1章 これまで
今朝の夢で見たのは現実に起こった出来事であり、私の人生が大きく動いた日の一場面である。
あの日、小さな弟は私達の前に突然現れた怪人の攻撃を受けて大怪我を負った。
私が怪人の攻撃を受けそうになったのを見てとっさに庇ったのだ。
当時弟は小学1年生で私は小学6年生。
姉の立場とは言え、未熟だった私は重体で運ばれる弟を呆然と眺めることしかできなくて。
弟が手術室の中へ連れていかれてから大きな白い扉の前で待つ間、その長い時間はとにかく自責の念に駆られて苦しくて、心の在処を求めて母に駆け寄ったのだ。
しかし、待合室で泣く母は温もりを求めた私の手を振り払った。
景色は見えているのに、見える世界は真っ暗になった。
あの日から日常の全てが壊れ、仲の良かった父と母は毎日喧嘩、学校や近所では悪い噂で持ち切りになり、ろくに出歩けなくなった。
毎日私と接する誰もが心のどこかにあった小さな不安、それが現実となったことで、みんな心が耐えられなくなったのだ。
迷惑に思っていた事は周囲や父母の喧嘩の声を聞けば簡単に分かる。
私一人だけ、みんなの笑顔を壊しているのは私。
怪人が家に来るのも壊していくのも、全部私のせい。
私が進んで孤立すれば、誰も傷つかないで済む。
最後に記憶にある自分の笑顔は、暗い顔をする母に一人暮らしを申し出た時だった。
無理をして作った笑顔を見て、母は堪えていたものを吐き出した。
不安からの解放、絶望からの希望。
限界だったのだ、母も。
私は1人で大丈夫。気にしなくて大丈夫。
泣きじゃくる母を前に私は笑顔を絶やすまいと必死だった。