第1章 これまで
強ばっていた体の力が抜けていくとそのまま優しく目を閉じる。
受け入れるのはこんなに簡単で、むしろ首元まで迫った爪を前にまた私は思っていた。
"これで良かったのだ"と。
____ジャリ
先程まで日光の明かりをまぶた越しに感じていたが、急に遮られて暗くなるのを感じた。
すぐ近くの細かい砂利を踏む足音の次に、怪人の唸るような声が響く。
「なんダ、お前ハ。」
痛みが襲ってこない、様子が変わったのを察して閉じた目を開く。
そこにいた人物を見て何故だか泣きそうになった。
怪人が掴まれている腕の攻撃を諦めて、肩の銃口にコォ…とパワーを込め始めると目の前の彼は怪人を思い切り投げ飛ばす。
それはまさに怒り任せといった感じだった。
「なんで抵抗しない。なに受け入れてんだ。」
いつも見る間の抜けた彼ではない。
真剣な表情で強く言う。
「お前が全部辞めたいなら俺は助けない。お前の血を飲んで強くなったアイツと戦う。」
____ガラガラッ
投げ飛ばした怪人が瓦礫の中から這い出てくるのが見えた。
彼もといサイタマさんは、目の前の怪人を鋭く睨み付けていた視線をこちらに移す。
「でも今お前、ものすげー顔してんぞ。」
鼻と目の奥がジンジンして、鼻先が冷えて痛い。
今にも溢れ出しそうな感情が何というのか、答えはすぐそこまで出てるはずなのに口から出すことができない。
一体私はどうしたいのか。
彼の問いに対して自信を持って、これでいいと言い切れない。
その答えをハッキリさせるために私は蓋をしていた昔の記憶を思い出した。