第1章 これまで
壊れてしまうのはあっという間なのだ。
迷惑を掛けてしまうのは最初から分かりきっていて、いつかそれが積み重なったら、何か切っ掛けになってしまえばあっという間。
せっかく話が出来る知り合いができた。
顔を合わせられて挨拶ができて話が出来る。
それがどんなに貴重であるかは考えなくても分かる。
これでいい。
少し気分を変えて出かけよう。
時間が経てばまた何も感じなくなるから。
バックに財布や携帯を詰めて考えもないまま外へ出ると、一つ深呼吸をして歩き出した。
階段を降りて、そうだ買い出しに行ってみようと何の気なしに自宅アパートの前を通り過ぎようとした。
その時。
____ガッ!!
何かがすごい速さで目の前を横切り、爆発音が聞こえる。
爆風で飛ばされた私がキーンと鳴り響く頭で状況を理解するまで時間がかかった。
耳鳴りが収まってから反射で閉じていた目を開けると、アパートは爆発のせいか酷い有様になってしまっていた。
「お前ガ例の女だナ?」
アパートを見つめる視線を声の方に移すと、体の大きな怪人が立っていた。
その目は鋭く、そして冷たく。明らかに強いと分かるビジュアルをしている。
「お前の血ガ欲しい。」
筋肉質の大きな手で私を指さす。
当たれば簡単に死んでしまうであろう尖った爪。
肩に乗っている銃口からは先程のような爆発の威力を持った玉が出るのだろうか。
逃げられるかどうかを考えても、逃げ切るビジョンは浮かばない。
サイタマさんを呼びに行くことも難しければ、叫んで声が届くかも怪しい。
「…人違いでは?」
会話をして時間を稼ごうと試してみるが、怪人は高らかに笑いながら
「人違いかどうカなど、試してみるだけダ。」
と言って、腕を振り上げる。
利用価値とか、色んな言い方をしてどうにか時間を稼いで…
なんて考えていたが迫る凶器を見て、ふと冷静になる。
今私がここで死んだとして誰が困るのだろうか。
走馬灯なのか家族の笑顔や出会った様々な人の顔が思い浮かぶ。
その全ての人の絶望や憎悪に満ちた表情までも。
「……」
あぁ…私がいなくなれば良かったのだ。