第1章 これまで
夢を見た。
長くて濃い夢を。
それは幸せで、暖かくて、現実と勘違いするほどであった。
私の家族はお父さんとお母さん、それから小さな弟もいた。
弟も私も大好物はオムライス。
はしゃぎながら、オムライスにケチャップをかけるのは私。
不器用な手で握りしめたケチャップで"大好き"と全員分描くのだ。
これは弟の分。
綺麗な黄色い山の上に丁寧に絞り出すが、中身が減っていたせいで文字の途中でバフッと爆発した。
ビシャッと飛び散ったケチャップ。
丸くて小さな黄色い山を汚して…
コロコロと転がっていくのは、あれはオムライスではない。
勢いを無くして止まったのは黄色い安全帽。
腕の中にはグッタリした弟。
服や帽子に付いているのはケチャップではなく、血。
沢山の血が私の腕を伝って地面に広がっていく。
次第に荒くなる息。
耳に残るのは踏まれた子猫のような弟の短い叫び声。
どうして…
どうして私なんかを…!
____バッ!!
勢い良く目を開けるとそこはいつもの見慣れた景色。
カーテンを閉ざしたままの暗がりの部屋は妙に安心感を与えてくれる。
腕の力でゆっくり起き上がるとシーツにポタポタと何かが垂れた。
驚いて目元を触る。
指先が濡れたのを見てようやく理解した。
そうか、泣いていたのか。
冷蔵庫からペットボトルの水を取り出すと、飲み干す勢いでゴクゴク飲んだ。
冷たい感覚が喉を通れば、頭も冷えてくる。
まったく。夢ならば夢らしく、夢を見せて欲しかったものだ。
時間を確認しようと電子時計を見てペットボトルを落としそうになる。
3日間寝てた。
喉が渇く訳だ。