第1章 これまで
2人が机を挟んだ向かい側に座ると、真剣な表情で話してくれた。
「まず貴女を狙う理由ですが、どうやら貴女の血が関係しているようです。」
血、と言えば怪我をしたあの日、怪人は自身の指に着いた血を舐め取りおかしな事を呟いていた。
吸血鬼とか血を吸う類の怪人だと思い、そこまで気にとめなかったが、次のジェノスさんの言葉で固まる。
「怪人の間では、貴女の血が身体強化の劇薬になると噂になっているようです。」
「…」
いやいや、そんなわけがない。
ただの人間で、血の色も赤くて、健康診断で特別何かを指摘されたこともない。
たまたまあの怪人が血を飲むと身体能力が上がる性質を持っていただけだ。
誰かと違う何かがある訳じゃ…
___ドゴンッ!!
「…また来たみたいだな。」
…違うじゃないか。
人はこんなに怪人を寄せ付けないし、家や職場が頻繁に無くなる事だってない。
それがもし自分の体を流れる血に原因があって、その気配に怪人が吸い寄せられていたとすれば納得がいく。
納得はいくが、それで納得してどうだというのだ。
母や父が同じように怪人を引き寄せる体質だったかと言われると、全くそんな事はなかった。
今この時も突っ込んできた怪人をサイタマさんが倒してくれなければ、食われるか攫われるかのどちらかになっていたのだ。
自分だけが周りと違う。
自分がいるから周りに迷惑をかける。
家族の仲をバラバラに引き裂く。
「…サイタマさん、お家壊してしまってすいません。」
「あ?いや、別に治すか部屋変えるからいいよ。それにお前のせいじゃなくて怪人のせいだし。」
俯いたまま小さく謝った私に彼はいつもの声色を変えることなく言った。
そのセリフが妙に昔の記憶と重なり、堪らずに私は立ち上がった。
「理由が分かってスッキリしました。サイタマさん、ジェノスさんありがとうございます。」