第1章 これまで
思い当たる節があるとしたら、あの日。
あの日を境に怪人の様子がおかしいからだ。
ただ確証がないため、ここでは黙っておこう。
「癪だけど、ジェノスが言うように問いただすしかないかもな。癪だけど。」
「そうですね。」
ジト目でジェノスさんを見るサイタマさん。
だがジェノスさんは相当鈍感なようで、その嫌味には気付かない。
「そうと決まれば…」
「高速接近反応。」
早速、と言いかけたサイタマさんの言葉を遮るようにジェノスさんが鋭い眼光で反応する。
左目がキュィンと音を立てて反応を示す。
来る…!
と言うと、目にも止まらぬ速さでジェノスさんは外へ飛び出す。
私も慌てて追いかけようとすると、サイタマさんに腕を掴まれる。
「お前がいると話さないんだろ?ここで待ってろ。」
「…でも」
「大丈夫だ。俺達が何とかしてやる。」
あっけらかんとした態度でニッコリ口元を微笑ませてサイタマさんはそう言った。
軽い足取りで玄関から出ていく彼の背中を見送ると、ソワソワと落ち着かない気持ちを誤魔化すように座り込んだ。
____ドカンッ!!
『おいジェノス!!俺ん家には当てるなよ!』
外では大きな音と、微かに2人の声が聞こえる。
知りたい気持ちと、邪魔をしたくない気持ち、任せきりにしてしまう申し訳なさがせめぎ合い、それでもサイタマさんが言った言葉を信じて待った。
しばらく大きな音が聞こえていたが、やがて何事も無かったかのように辺りは静まり返る。
長い沈黙の続く室内では小鳥の鳴き声がとても大きく感じた。
「…」
どのくらい経ったか、2人が負けることはまず無いとは思うが突然聞こえた階段を登る足音にはドキリとした。
安心したのは2人の話し声が聞こえてきてから。
玄関の前までやってきた声は何かを言いあっていて、間髪入れずガチャリと扉が開く。
「貴女を狙って来る理由が分かりましたよ。」
そう言いながらズンズン部屋まで上がってくるジェノスさんを不満そうに見つめながら、サイタマさんも戻ってくる。
所々汚れたジェノスさんの顔や服を見ると、簡単であったようには思えない。