第1章 これまで
まさか自分以外に危険区域に住む人間が居たとは、というのはお互い思ったことであるが。
最近になって、出会う怪人は偶然と言うより狙って来ている事が増えた。
日に日に増える怪人の来訪に、疲労は溜まり、お金は減り。
新しい仕事を探すにも、こうも怪人に襲われていては話にならない。
という事で、相談をしにサイタマさんの家を訪ねていた。
「…という事でして。」
一通り説明する間、持って来た手土産のお菓子をボリボリ食べているサイタマさん。
そして真剣な眼差しの見知らぬサイボーグの青年。
「なるほど、それは一度怪人から問いただした方がいいかもしれませんね、先生。」
「…お前はなんで居るんだ、ってか初対面なのによく平然と相談に乗れるな。」
大層迷惑そうな顔で青年に言うが、彼が気にする素振りはない。
むしろ誰なのか気になって見ていた私の視線に気が付いて、正座のまま向き直った。
「失礼、私はサイタマ先生の弟子をしています。ジェノスと申します。」
とても丁寧な口ぶりだが、彼に特別表情はない。
「先生のご友人が来ると聞いて挨拶をと思いましたが、まさか女性だったとは。」
「友人じゃない!あとお前を弟子にした覚えもない!」
やんややんやと文句を並べるサイタマさんにジェノスさんは「友人でなければ、恋人…?」と言って頭を殴られていた。
賑やかな光景に懐かしさを感じて、じーっと眺めてしまう。
「あぁ、悪い。で、怪人達はお前に用があるってハッキリ言うのか?」
大体の事情を知っているサイタマさんは変に勘ぐってしまったのか、気を使って話を戻す。
眺めてしまったのは悪い意味ではないのだが、そう思わせてしまったことを反省した。
私も思い馳せに行っていた意識を戻す。
「はい。詳しく話そうとはしませんが…。」
ここ数日で襲って来る怪人は決まってどこかへ連れていこうとするが、その度に詳細を聞こうとしても、教えてくれることは無かった。
深入りすると自力で逃げ出すことが出来なくなるため、力でねじ伏せられない私には限界があった。