第1章 これまで
「俺様は猿人類、霊長類最強の怪人だ!!」
次の日もいつも通り現れた怪人をながめていた。
だけど、何やらいつもと様子が違う。
「女!今日はお前に用があって来た!」
この怪人は私を私個人として認識して来ているのだ。
こんなことは今までにはなかった。
これでは無反応作戦はおろか、気配消しすらも通用しない。
「一緒に来てもらおう!!」
事もあろうに何も言っていない私を連れていこうとするのだ。
がっしり掴まれた腕を振り払おうにも流石は怪人、ビクともしない。
そのままズルズルと引き摺られていると真後ろから声がかかる。
「お前、また怪人に絡まれてんのか。」
何度目か、この人に会うのは。
引き摺られながら振り返ると白マントさんが私服で立っていた。
手にはスーパーの買い物袋を持っていて、オフであることを窺える。
流石にオフの日に助けてもらう訳にはいかないだろうと、自力で抜け出す術を見つけるべく葛藤していると、白マントさんはあっという間にワンパンで怪人を遠くへ飛ばしてしまう。
「…」
掴んでいた腕がちぎれて、私の腕にしがみついているものを何も言わずにもぎ取る。
手に持っていたくないので、道の端に投げ捨てた。
「そんなに毎回怪人に出くわすなら、ヒーローになった方がコスパいいぞ、多分。」
「…」
無言で腕をさする私に白マントさんはそう言った。
確かに自分が戦えれば効率がいいし、迷惑も掛からないが…
ヒーローが狭き門なのは言わずと知れた事実。
並大抵の人間には難しいのもまた事実。
「…お名前を伺ってもよろしいですか。」
せめていつも助けてくれる彼の名前くらいは知っておきたい。
「あー、サイタマ。」
何も考えて無さそうな顔でそう言った後、急に決め顔をして「趣味でヒーローをやっているものだ。」と続けた。
ようやく聞けた名前なので、改めて彼に向き直って頭を下げた。
「…サイタマさん、いつも助けてくださってありがとうございます。」
すると彼は困ったように眉尻を下げる。
「いや、いいよ。どうせ趣味だし。」