第1章 異世界転生
この日、私は街へとウインドウショッピングに来ていた。比較的、娘に甘いと分かった父親だけど、他の令嬢の様に特に物欲のない私はこうして見ているだけで楽しい。
「あ、やっぱり売れたのね。良い品だったからしょうがないわ。」
「お嬢様、今日はご当主様の誕生日プレゼントを買う為に来たのですよね?」
「えぇ、そうよ?他にも見たものはあるし、幾つかピックアップしているから。」
色んな店先で、商品に対して同伴してくれているメイドのナミエと話しをしていると少し離れた場所で小さな悲鳴が聞こえた。目を向けると、そこには年配の女性が転んでいた。
慌てて近付き膝をついて、その女性を支えようと手を差し伸べた。
「ありがとう、ごめんなさいね。悪いと思ったのだけど、貴女の商品説明が面白くてつい聞き入ってしまって・・・。」
「何か、ご要望でもあるのですか?」
「そうなの。孫がね、隣国に留学していたのだけど三年ぶりに帰って来るの。だから、何か贈り物でもと思って。若い人が喜ぶ様な何かと思っていたんだけど。」
「お孫さんは、男性ですか?女性ですか?」
「男の子よ。」
「そうですか。では、私たちとご一緒されませんか?」
私は、馴染みとなった路地裏にあるひっそりと営業しているペンのお店へと訪れた。
「まぁ、素敵な万年筆。あの子、瞳が紫だからその色がいいわ。」
どうやら気に入ってくれたらしいこの女性は、私と同じく万年筆を購入した。
「喜んでくれると嬉しいのだけど。」
「私もです。」
「フフ、いいお買い物が出来たわ。どうもありがとう。そうだわ、お世話になったし何処か近くでお茶でも如何かしら?」
「あ、申し訳ありません。そろそろ帰宅しないと、この後予定がありまして。」
「そう、それは残念ね。では、お名前だけでも聞かせて貰えないかしら?」
「いえ、そんな大層なことは何もしていませんから。」
「お嬢様、そろそろ迎えが。」
「分かったわ。それでは急ぎますので失礼します。」
何か言いたそうな女性だったけれど、メイドに急がされて馬車が待つところへと急いだ。
屋敷に戻ると、既に父親が帰宅していた。私が戻るなり、執務室に呼び出されて先日の続きを聞かされることとなった。