第3章 確信
千明side
最近、佐野の様子がおかしい。
元々優しかったが、もっと優しくなった気がする。
あのキスの意味も未だに分からない。
抑制剤のことだってそうだ。
そして俺自身も佐野と居ると鼓動が少し早くなる。
まぁ顔が良い人と一緒に住んでいればドキドキはするだろうが。
きっと俺のこの鼓動の高まりはそれなんだろう。
そんなことを考えながら俺は母さんと住んでいる家に辿り着いた。
今日は退学届を提出するための印鑑を取りに来た。
誰もいないといいが。
前に母さんが男の人を連れていたことがあった。
その時は母さんは家に居らず、その男の人だけだった。
きっと彼氏だろうとその時は気にも止めず部屋に入った。
だが、当時自分がΩだということはどういう事なのか知識がまだなかった為、その人に襲われた。
俺の初めてはその時だった。
痛くて苦しくて怖くて。
声も出せず、ただその人にされるがままだった。
幸いにも発情期がまだ来ていなかった俺は妊娠せずに済んだ。
忘れたくても忘れられない思い出。
あの時の恐怖は未だに脳裏に焼き付いている。
今回も誰も居ないことを願って玄関の扉を開けた。
「ただいま…」
良かった、誰もいない。
印鑑だけ取って家を出ようと玄関を上がる。
「随分早い帰りだな。」
聞き覚えのある声がリビングから聞こえた。
「学校には行っていないのか。」
呆れたように溜息をつき、俺をゴミを見るような目で睨んできた。
「……父さん…どうしてここに…」
俺の実の父親だった。