第1章 ヒーローとの出会い
千明side
両腕を抑えていたものが離れ、全身の力が抜けた。
発情期と遅れてきた恐怖で腰が抜けてしまい、状況を把握出来なかった。
周りを見ると先程の男が倒れていて、その近くに立ち尽くしている人影が見えた。
「誰……」
名前を聞こうとした時、俺を襲ってきた男が顔を上げた。
殴られたのか左頬が真っ赤に腫れている。
「てめぇっ何すんだよ!」
「……強制わいせつ罪で捕まるぞ、お前。」
「はぁ?んなの警察に言わなきゃバレねぇだろうが。てかフェロモン出しながら歩いてるΩが悪いだろうが。それで被害者面されても困るんだよ!悪いのは全部っ!」
再び殴られて意識を失ってしまった。
「はぁ……おいお前、立てるか?」
そう言って俺の方に向かい手を差し伸べてきた。
それまでよく見えなかった顔がはっきり見えた。
くせっ毛の黒髪、垂れた優しそうな瞳。
俺よりも年上だろうか。
綺麗な顔立ちをしていた。
思わず鼓動が高まる。
「あ、ありがとう……ございます……//」
熱があるのか視界が上手く定まらない。
その人の手を取ろうとしても距離感が掴めず体制が崩れてしまった。
「っ、おい!」
すかさず俺の体を支えてくれた。
いい匂いがする。
この人もαだ。
でもこの人なら……抱かれてもいい。
俺のヒーローだから。
「ごめ……からだが……//」
俺は意識が朦朧として上手く立てなかった。
薄れていく意識の中でその人が俺を担いでくれてるのが分かった。
やっぱりいい匂いがする。
俺のフェロモンに耐えれるってことは、しっかり抑制剤を飲んでいるのだろうか。
何より通りかかった人が優しい人で助かった。