第1章 自己紹介
「だろ。結婚と同時に、子供を授かるなんて、理想だよ」
と、話している夫の声。
そう、夫は、付き合っているときに、何度も、結婚したら、子供がたくさん欲しいと言っていた。
テレビの大家族の番組を見ながら、
「俺、兄弟がいないから、結婚したら、これくらい、子供が欲しい」
と、笑っていた夫の顔を思い出した。夫の両親も、結婚式のときに、
「若いから、何人、孫ができるか、今から楽しみ」
とか、
「そうだな。静也は一人っ子で寂しいって言っていたからな」
とか・・・。
あの頃は、わたしも、子供ができるものだと勝手に思っていた・・・。
体外受精すれば、子供ができないわけではない。
でも、そんなお金はどこにもない。
お金を貯めてと言っても、貯まるころには何歳になっているのかしら・・・。
わたしが帰宅したことに気が付いたのか、夫が、
「あ、また、連絡するよ」
と、慌てて、電話を切っていた。隠し事をされるのは嫌だったけど、知らぬふりで、
「ただいま」
と、言ってリビングに入っていった。
「今日は、早かったんだな」
と、作り笑いをする夫。
「うん」
と、わたしが頷くと、
「シャワーしてくる」
と、夫は言って、脱衣所に消えた。
夕食を作っていると、脱衣所で夫の小さな声が聞こえた。
「野々花が帰ってきているから、明日、こっちから連絡するから」
と、誰かと話していた。
わたしと話さずに、不妊治療のこととかを誰かと話しているだけで、不信感しかなかったし、哀しかった。
夫婦の大事なことを他人に話す夫の行為が許せなかったけど、わたしが原因の不妊だから、心の中で思っている言葉は、口からは出てこなかった。
でも、「野々花」と、言うことは、近い人。
普通に考えれば、義両親。
他には、学生時代のわたしも夫も、両方が親しい友達。