第5章 「僕」
「おじいちゃん、行ってくるね」
「ああ、気をつけてな」
僕はそう言っておじいちゃんとおばあちゃんの家を出る。手には巾着袋に入った桃。本当は二つ持って行くんだけど、僕はまだ子どもだからって一つだけ持って行った。
僕のおじいちゃんたちの家の隣には、真っ白な鳥居の神社がある。本当は僕たちのご先祖様? のお墓があったところらしくて、氏神神社っておばあちゃんはよく言ってた。
長い長い階段を登ると、そこにはよく知った本殿があって、子どもだった僕は世界で一番デカイ建物なんだなって勝手に思ってた。
僕はおばあちゃんに言われた通り礼と拍手をして賽銭箱の横にある台に桃を置いた。本当は奥にある御神体の前に持って行くみたいだけど、僕は中まで入ったことはない。
「大原さんの子? 偉いわねぇ」
と言って出てきたのはここの住職のおばあさんだ。この神社はなぜか、尼寺みたいに女の人ばかりが働いていた。昔はおばあちゃんのおばあちゃんがここの住職だったらしいけど、今は全然関係ない人たちがこの神社を管理していた。
「おばあちゃん、腰が痛いんだって」
と俺が言うと、そうなのかいと言いながら、住職がちょっと待ってね、と何かを渡してきた。
「これは……?」
「それはこの神社の近くで湧く水さ。白蛇様の泉とも云われていてね、これを飲んだらきっと腰もよくなるよ」
「ありがとうございます」
僕は頭を下げて貰ったペットボトルを持って行く。この神社は白桃神社と呼ばれていた。