第27章 そして
ドズル社から長めの休暇を貰い、俺は電車で祖母の家に向かっていた。
どんどんと田舎の景色になっていく世界に、変わらないなぁとぼんやり眺めながらよく知った道を進んで、桃の果樹園と真っ白な鳥居を視界に入れる。
「ばあちゃん、お土産持ってきた」
祖母の家で都内の土産を持ってくると、そこに見知らぬスーツの男を見かけてちょっとびっくりする。
「おや、もう来たんだね。そこに置いといておくれ」
ばあちゃんは土産を仏壇に置くように指示し、俺がそこに土産を置くと早速スーツの男が名刺を取り出した。
「こういう者です」
名刺には地元の雑誌記者であるということを示す文が書かれてあり、俺はお辞儀をして一旦この場から離れようとした。すると、記者が話し出したのだ。
「この果樹園は昔、桃の品種改良の開発に協力したところだと聞きまして、取材をしていたところなんですよ」
「……え?」
それは初耳だ。確かに、周りは林檎の果樹園だらけなのに、祖母の家だけ桃の果樹園なのは不思議だとは思っていたが。祖父が桃の木から落ちて骨折してからは果樹園はだいぶ小さくなったが、遠い親戚が跡を継ぐらしくて、今年も美味い桃が届いたばかりだった。
「先代がね、そうらしいんだけど」と祖母が当時の資料っぽいものを持って来た。「ほら、ここにいるのがばあちゃんのばあちゃん。外国の桃と掛け合わせて、美味しい桃を作っていたのよ」
と祖母が指す白黒の写真には、何人かの農家が映っていて。そこに見覚えのある若い女の人がいて、俺は自分の目を疑った。
「それと、隣の白桃神社についてもお聞きしたく……」
と記者が祖母に取材を続けていたが、俺は最後まで聞かずに外へ出た。