第24章 舞
神楽殿は、見晴らしのいい山の上に建っていた。
いつまでも高い月を見上げて、僕は勝手に、ここは時間が止まった世界なのだと思った。こんなに長い夜を外で過ごしたのは初めてでワクワクしたけど、同時に魔蛇たちの別れも近づいている気がして、ドキドキした。
神楽殿はどこかで見たことがあるような、神社にあるかのような建物だった。ただ、壁がなく、四方向から月明かりと風が通り抜けていて、どこか異質な感じがした。
「舞台の真ん中へ」
と白蛇が言った。僕が振り向くと、蛇が三匹縁側に並んでいて、一緒に来ないのか? という言葉が喉まで出かかった。
「あの真ん中の……ちょっと高くなっているところに立つの?」
神楽殿の真ん中は畳がもう一枚重なっていて少しだけ高くなっていた。白蛇は、目を閉じた。
「ええ、そうです」
白蛇に言われた通りに真ん中に向かうと、床に何か物が置いてあることに気がついた。持ち上げてみると、輪っかが何個もついた長い杖だった。
「これは……?」
僕は白蛇たちの方を見た。神楽殿の中は電気もないのになぜか明るくて、白蛇たちの方は黒いシルエットでしか見えなくなっていた。
「神楽に使うものです。貴方はそこで舞を……踊りをするのです」
白蛇の声だけが聞こえた。
「踊り? 僕、どうしたらいいか分からな……わぁ?!」
杖に引っ張られた、という言葉が合うのだろうか。僕は杖に振り回されるように前に出て、右に行ったり左に行ったり、そしてぐるりと回ったりした。これが踊りなら僕は今めちゃくちゃな動きをしている。ジャラジャラと杖の音だけがうるさく鳴っていて、僕は延々とよく分からない踊りをやらされていた……。
そして最後に、蛇たちが僕の名前を呼んだのが聞こえた。
「ありがとう、大原の────」