第23章 走る
「はぁ……はぁ……」
だいぶ走った。走り過ぎて咳き込んだ。
まだ月が高いところにある夜。森の中に逃げ込んだ僕たちは、後ろでお屋敷が全焼しているのを目の当たりにした。
「……おい、そろそろ離せよ」
闇蛇にそう言われ、僕はようやく、その黒い尻尾を手放した。闇蛇はもう屋敷に戻るとは言わなかったが、ただただ燃え盛る屋敷をじっと見つめていた。
きっと、白蛇のことを想っているんだ。
そこに、炎蛇が意味深そうなことを訊ねた。
「闇蛇よ、この少年に会ってから、少し性格が変わったのではないか?」
すると闇蛇がすごい目つきで、
「ああ?!」
と声を返す。しかし炎蛇は動じる様子なく、一つ瞬きをして。
「もしかして、貴方は……」
その時、白い光が目の前を過ぎって会話は途切れた。僕は、その光が全ての始まりだったと指をさした。
「僕を崖に落とした光だ!」
そう僕が言うと、炎蛇も闇蛇も驚いて、それから同時にこう言ったのだ。
「彼女が白蛇だ」
「えっ」
僕は目を凝らしてよく見てみた。やがて白い光は小さくなり、徐々にその姿が見えてきた。
真っ白で、赤い瞳をした、長い長い体をした蛇。
僕は、白桃神社に描かれていた白蛇を思い出した。怖くて、美しい蛇。まさにその言葉がピッタリな蛇だと僕は思った。