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あの日見た桃の思い出

第20章 畳の部屋


 そこはさっき見たところと同じような畳のある部屋だった。
 そして低い机があり、お屋敷様はつい先程まで何か書き物をしていたということが伺える。そして机と向かい合うようにあるのは、大きな仏壇。
「なぜ誰もいないのに障子が破けたのだ……」
 そこに、お屋敷様が部屋に戻ってきた。僕は引き下がって部屋の隅に行く。お屋敷は書き物を続けた。
(どうしよう……)
 僕は困っていた。このまま仏壇を開けたらまたお屋敷様に疑われるし、だからといって部屋を出ようと障子を開けても同じだ。ここから出るタイミングを待たなくては。僕は手汗を握った。
「……見えない侵入者がいるなら」ふと、お屋敷様が筆を止めた。「魔法球を盗まれてはいまいな?」
 魔法球? ここにあるの……?
 僕はじっとしたまま、お屋敷様の行動の行方を見守った。お屋敷様はズカズカと歩きながら仏壇を開けた。途端に目も開けられない程眩しい光が差し込んで、僕は少しの間目を覆った。
「ふむ、魔法球は大丈夫だな」
 目が光に慣れてくると、お屋敷様がそう言って仏壇の前で頷いているのが見えた。僕もそっと遠くから覗き込んでみる。手の平サイズのガラス玉のようなものが、仏壇の真ん中に置いてあった。しかも、ガラス玉の中にある何かが、ゆらゆらしたり広がったり小さくなったりして、ずっと見ていると目がおかしくなりそうだ。
「お屋敷様、ご報告が」
 その時、障子の向こうで声がした。月明かりで影だけが見える誰かが、こちらに向かって膝まづいているのが見える。
「どうした」
「実は……」
 声が小さくなって聞こえなくなった。お屋敷様が部屋を出て行ったからだ。
 だがこれはチャンスだ。僕はすぐに仏壇に置いてある魔法球を手に取った。これをどうにかして壊したら、魔法蛇たちは解放され……。
「何をしている」
「え」
 ゴトン。僕は魔法球を落とした。だけど、拾うことは出来なかった。
 僕は、お屋敷様に睨まれていた。僕に掛かっていた魔法は、いつの間にか消えてしまっていたのだ。
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