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あの日見た桃の思い出

第17章 長い夜


 僕は闇蛇の力のおかげでようやく牢屋から脱出出来た。闇蛇が、壁を大きく壊したのだ。
「ありがとう、助かったよ」
 とちゃんとお礼を言うと、闇蛇はニタリと笑って、
「脱出する気がなかったら、置いていくつもりだった」
 なんて言うのだ。
 だけど僕はだんだん闇蛇に親近感が湧いていて、本当は優しい蛇なんだろなと思い始めていた。
 そうして僕たちがお屋敷の外に出た時、僕は炎蛇が気になって足を止めた。
「どうした。家に帰らないのか」
「……炎蛇は、無事なの?」
 闇蛇は僕の質問にピクリと動きを止めた。それから闇蛇は僕を振り向く。
「あんな奴、知るかよ。とりあえず、俺は助けたい奴がいるからお前を家に送り届けたら屋敷に戻る」
「僕も行く!」
「はぁ?!」
 闇蛇が怒ったように頭を上げて僕を睨みつける。どうして僕がこう言ったのか、少しあとになった僕でも分からない。
 多分僕は、この時勇者の気持ちだったんだと思う。
「ねぇ、お願い! 邪魔しないから!」
 子どもがついて行くってそれだけでも邪魔だろうけど、この時の僕は必死だった。
「だから、お前は……うっ?!」
 僕は勢いで闇蛇の尻尾を掴んでしまった。闇蛇は飛び上がり、反射的に僕の手に噛みつこうとして大口を開けている。時間が止まったみたいだった。
「ご、ごめんなさい……」
 僕はそっと闇蛇から手を引っ込めた。闇蛇は僕のガーゼと包帯でグルグル巻きの手を見ながら、ゆっくりと口を閉じた。
 闇蛇は、僕に噛みついたりしなかった。
 闇蛇は嫌な奴なんかじゃないのだ。僕はようやく理解して、一人で頷いた。
「……僕、帰るよ」
 僕は諦めて後ろに下がった。元々の僕の目的は家に帰ることだったのだし。
 僕は、暗い森の中を見つめた。この先に行けば、帰れるんだろうか?
「分かった分かった。一緒に行こう」
「え」
 どういう心変わりなのか、闇蛇がそう言って屋敷の方を向いた。それから僕の方を見て、こう付け足した。
「足は引っ張るなよ」
 そうしてギョロリと僕を振り返った闇蛇の瞳を、ここで初めて怖いと思った。僕は、慎重に頷いた。
「うん、分かった」
 夜が、とても長く感じた。
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