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あの日見た桃の思い出

第16章 再び


「届いた!」
「届いたところでどうするつもりだ」
 思わず声が出てしまったところで、誰かの言葉が飛び込んだ。僕は横を見てみた。そこには、顔が蛇のアイツが立っている。
 僕は負けじと言い返してやった。
「ここから脱出するんだ。僕は家に帰るんだ!」
「お前には出来ねーよ。足元の物に気づいてないならな」
「足……?」
 何を言ってるんだと僕は少し後ろに下がった。その時、コツンと何かにぶつかった。僕は手を伸ばしてそれを月明かりに照らしてみた。水入れの皿があったのだ。
「そっか、これを使ったら……!」
 僕は服の紐を引き上げ、そこに皿を結びつけた。皿は丸くて難しかったけど、そこまで丁寧にする必要はない。だって僕は今から、結んだ皿をあの窓の柵にぶつけて壊すんだから!
 皿と柵はぶつかった瞬間に簡単に壊れた。こっちは特別な金属で出来てはいなかったみたいだ。炎蛇の魔法でだいぶ壊れかけていたのかもしれない。
 あとはどうやってあの高い窓まで登るか、と考え始めたところで気づいた。さっきまで鉄格子の向こうにいたはずの化け物がいない。
 もしかして、外で待ち構えている……? という僕の予想はピッタリ当たっていた。
「おい、早く来い」
 ……え?
 窓から出てきた顔に僕は声も出なかった。大きな蛇の顔が、僕を見下ろしていたのだ。
 やっぱり、見回りが外で待ち構えていたんだ。
 だけど僕は負けない。なんとかしてここから出てやると心の中で意気込んでいると、その蛇の顔が途端に小さくなって僕はびっくりした。
 真っ黒な蛇になったのだ。
「これさえ壊れたらこっちのもんだ。今穴を空けてやるからな……ってどうした、小僧」
 その皮肉っぽい言い方と声。僕は聞いたことがあった。
「……闇蛇?」
 すると、真っ黒な蛇はケラケラ笑った。
「そうだ。よく覚えていたな。俺は見たものと同じものに変身出来る夢蛇なんだ」
 僕はガクリと、なぜなのか膝から座り込んだ。
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