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あの日見た桃の思い出

第16章 再び


「うっ……!」
「しばらくはそこで大人しくしてろ」
「待て……!」
 ガタン!
 抵抗も虚しく、僕は牢屋に乱暴に入れられた。
 すぐに立ち上がって出ようとしたけど、化け物に押されてまた尻もち。僕は、牢屋に閉じ込められてしまった。
 薄暗くて冷たい床に、僕はだんだん怖くなってきたけれど泣かなかった。だって僕は男だし。炎蛇との約束も果たせたし、僕はカッコイイ勇者なんだと何度も自分で言い聞かせた。
 心を落ち着かせるとだんだん頭も冴えてきて、僕は注意深く周りを観察した。この牢屋はさっきまで炎蛇たちが捕まっていた魔法蛇がいたところで、他のオリの中は開けっ放しで空っぽだった。そして壁や天井が焦げている。
 鉄格子は全然焦げていないのが不思議だったけど、多分それが「特殊な鉄」って奴なんだと僕は思った。月明かりが差し込んできて見上げると、僕が外から覗き込んだ高い窓がそこにあった。
 その窓によじ登ろうとはしたけれど、さすがに背が低過ぎた。オリの中には何もないし使える物は何もない……と思って僕の体を見て気がついた。
 僕は服を着ている。
 僕は一度見回りのアイツが来ないか確認して服を脱いだ。服を紐みたいに丸めて、シャツも脱いで服に結んだ。それから僕は高い窓に向かって放り投げた。
 届かない。もう一回。
 あと少し。もう一回だ。
 あ、少しズレちゃった。
 ……もう一回だ。
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